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Global Press

「動物愛護先進国」は本当か?西ヨーロッパ諸国の「ペット事情」


©Josh Henderson

(写真はイメージです)

人間と同等の「権利」

本国を後にし、ようやく欧州諸国へ到達した難民たちが、安住の地と選んだその国で信じられないと驚愕するもののひとつに、動物病院がある。「私の祖国には人間のためのまともな病院すらないのに、ここには動物のためのすばらしい病院がある!」と彼らは目を丸くする。

動物の権利を守る政党「動物党」や、24時間体制の動物専用救急病院の存在など、動物愛護の精神に満ちたニュースがメディアで報道されるたび、ヨーロッパ諸国イコール動物愛護先進国という公式が成り立つことを誰もが実感しているだろう。

確かに、ロンドンやパリなどの大都市で、野良犬や野良ネコが徘徊する姿にお目にかかることはまず

ない。これは、動物愛護精神に基づいた正当な管理がなされているためだろう。しかし、実情はどうなのか。

里親斡旋施設と「一時預かり」

西ヨーロッパ諸国には、各自治体が運営する「里親斡旋施設」がある。ここに収容される犬やネコは、人に著しく危害を与える恐れがあるとか、不治の病気、命に関わる大怪我を負っているなど特別な理由がない限り、殺処分されることはまずなく、飼い主が現れるまで施設内で過ごす権利をもつといわれる。

斡旋施設のサイト(例):https://ikzoekbaas.dierenbescherming.nl/

しかし、これらの施設は各地方自治体の基本資金により運営されているため、その額は自治体により差がある。十分に資金が確保される施設には余裕があるが、その逆の場合、たとえば飼育費用と世話に労力がかかりすぎるという理由から、生後12週間に満たない子ネコはほとんどが殺処分されている(オランダ・ポルトガルでの例)。しかし、この事実は公にされないため、人びとは里親斡旋施設に預ければ安心だ、と考えているだろう。

では、収容される動物たちが増え続けたら、こうした施設経営は一体どうなるのか。犬の寿命は13年、ネコは15年としても、持ち込まれる数が増えれば飼育費で経済的に破綻するのではなかろうか。これを回避するために各施設では一時預かりを請け負うボランティアと提携している。彼らは、長期収容中(普通は半年以上)の犬やネコを自宅に連れ帰り、里親が見つかるまで世話をする役目を担っている。事実、このようなボランティアらから愛情を受けて過ごしている犬・ネコたちは、精神的にも落ち着いているといわれ、里親にも比較的出しやすいメリットがあるという。

ペット受難の季節、「バカンス」と「クリスマス」

犬やネコが「里親斡旋施設」に大量に持ち込まれる時期は、ほぼ毎年決まっている。毎年7月上旬から8月下旬までだ。この時期は、欧州人たちにとってバカンスの季節である。有給で最長3週間の取得が可能であり、年に1度の最大イベントとさえされるこの聖なる(?)時期に、ペットのことなど考えるヒマも費用もないため、「里親斡旋施設」へお涙頂戴的なウソをつき、ペットを持ち込む人びとは毎年あとをたたない。

それだけではない。里親になりたい、と斡旋所に希望する人の数が増える時期もある。これは、クリスマス前だ。恋人や家族へのプレゼント用にペットを贈りものにするためなのである。「里親斡旋施設」の犬やネコは、マイクロチップ代や手数料を払うだけで手に入れることが出来るのみならず、里親として救済してやった、という自負のおまけつきだ。しかし、クリスマスが過ぎる年明けになると斡旋施設は再度、多忙になる。これは、プレゼントにされた犬やネコを戻しにやってくる「里親」が絶えないからである。

こうした実態を目の当たりにするとき、他国の動物関連事情を徹底的に非難することなど、全くもっておこがましいといわざるを得ない。不幸な動物を増やすことにおいて、どの国も「動物愛護先進国」などという肩書きをもらうにふさわしくないのではないか。

ブリーダーの実態

それでは、愛犬家・愛猫家と称して憚らないヨーロッパの「ブリーダー」(動物の繁殖・販売を手がける人)もやはり、動物愛護の精神に則って適切な繁殖を行なっているのだろうか。これは例にすぎないが、ブリーダーたちは趣味の延長で繁殖させている人が多いため、購入希望者が複数現れた時点で繁殖プランを練る。従って、希望者は実際に仔犬や子ネコを迎えるまで、最低でも1年は待たねばならない。しかし、この期間があるからこそ、無駄な衝動買い(飼い)が回避されるとブリーダーたちは考えている。彼らは基本的には良心的だが、繁殖させた犬やネコで「金もうけ」をすることももちろん、頭にちらついているだろう。

個人的に聞いた話では、自分で繁殖させた子犬や子ネコがスタンダード(標準)に達していない場合、血統書さえ完璧ならば、海外の(つまり遠方に住む)人たちに美辞麗句を並べて売りに出すことは常習だという。売った後で、たとえ欠陥が見つかり苦情をいわれても、いったん迎え入れた動物を「返品」したり「交換」するのはしのびなく、海外へ送り返すには輸送費もかかるため、ほとんどの人たちはこれをしない、と見込んで売っているということだ。

上記以外にも、驚くような事実は山ほどある。しかし、真実を知っている人は少ない。メディアがきれいごとを並べ立て、いかに動物たちが愛されているか、また、哀れな動物たちを保護することにいかに長けているかが賞賛されて語られるだけだ。「わが国は動物愛護先進国である」と自負するのであれば、国民ひとりひとりが命の尊さを冷静かつ真剣に考える余裕を持ち、責任を持ってペットを迎え入れるようになることを願ってやまない。

(書き下ろし)


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