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「トスカーナで地域性守る赤ワイン ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ


カステルジョコンドの試験栽培畑。80種のクローンが25本ずつ栽培されている。

イタリアを代表するワインのひとつ、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノの故郷はトスカーナ州キャンティ地域のすぐ南にある。使用されているぶどう品種はキャンティ地域のワインと同じサンジョヴェーゼだ。しかし、そのワインはキャンティ・ワインとは異なる独自性を持つ。

ブルネッロに道筋を示したビオンディ=サンティ家

「ブルネッロ」はモンタルチーノ地域固有のサンジョヴェーゼの変種で、サンジョヴェーゼ・グロッソとも呼ばれ、小粒で凝縮した味わいを持つ。この高品質のぶどうに着目したのが、19世紀に登場する醸造家クレメンテ・サンティだった。どの農家もミサ用の白ワインに使われるモスカデッロの栽培に力を入れ、ブルネッロには目もくれなかった時代、クレメンテは選別して増やしたブルネッロでワインを造りはじめる。その後クレメンテの孫フェルッチオ・ビオンディ=サンティが、長時間にわたる浸漬、大樽での長期熟成など醸造方法を改良した。第二次大戦後、フェルッチオの孫フランコがハイレベルのブルネッロを世に出す頃には、彼らと志を同じくする造り手が増え、ブルネッロの名声が徐々に高まった。

カステルジョコンドのワインメーカー、フィリッポ・マンニさんはボルドー大学卒。以前はシャトー・オー・ブリオンに勤務していた。

ブルネッロ100%へのこだわり

1980年、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノはイタリア初のD.O.C.G.(保証付統制原産地呼称ワイン)に認定された。この肩書きはブルネッロ1品種のみの使用、収量制限、最低2年のオーク樽貯蔵、収穫後5年目からの販売など、いくつもの厳格な規定をクリアしていることを保証する。8年前、複数のブルネッロ・ディ・モンタルチーノにカベルネ・ソーヴィニヨンなどの国際品種が違法にブレンドされていたことが発覚した事件は、ブルネッロのアイデンティティを再考する契機となった。キャンティ地域では国際品種のブレンドは認可されているため、意見は分かれたが、最終的にブルネッロの生産者たちはブルネッロ100%というルールを貫くことを選択した。

将来性を考慮したワイン造り

昨秋ブルネッロの生産者210社で構成される広報機関、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ協会を訪問した。モンタルチーノのオフィスで行われたプレスミーティングでは、土壌の解説に重点が置かれた。モンタルチーノには大きく分類して4つの全く異なる土壌のタイプがあり、同じブルネッロでも土壌が変わればワインに異なるニュアンスが生まれる。土壌研究は今、最も熱いテーマ。土壌を考慮し、村ごと、畑ごとのワインが作られるようになっている。

ワイン生産大手フレスコバルディ社が1989年に購入したカステルジョコンド(Castelgiocondo)では、すでにシングルワインヤード(単一畑)のブルネッロをリリースしている。加えて2010年からは各地で収集した80種類のサンジョヴェーゼ・クローンの試験栽培を始め、将来性のあるクローンを探ろうとしているところだ。2015年産からはオーガニック認証も得た。将来的に高品質を維持し、差別化を図るための準備が着々と進められている。

他の醸造所においても同様の動きは見られ、創業1970年のカパルツォ(Caparzo)も、エリア別のブルネッロを生産している。1998年創業のポッジオ・イル・カステラーレ(Poggio Il Castellare)では気候変動を考慮し、複数のクローンを標高の高い冷涼な畑で栽培しはじめた。1965年創業のカプリーリ(Caprili)では創業者がサンジョヴェーゼのクローン選別の仕事に従事していた経験から、複数の選り抜きのクローンを栽培している。1980年創業のタレンティ(Talenti)でも5種類のクローンを導入していた。

モンタルチーノ地域の伝統では、オーク材の大樽にワインを貯蔵するが、生産者の約半数がバリックを呼ばれる主にフレンチオークの小樽を併用している。しかし訪問した醸造所では、サンジョヴェーゼとフレンチオークの小樽は必ずしもベストマッチングではないという意見を多く聞いた。理想的なのはやはり昔ながらの大樽であり、フレンチオークより樽香が控えめなスロヴォニアンオーク(クロアチア、スロヴォニア地域産のオーク)が好まれている。訪問した醸造所は、いずれも長期的展望を持ち、個性豊かなブルネッロ・ディ・モンタルチーノを産み出そうとしていた。

カステルジョコンドのブルネッロ・コレクション。

日々の食卓を彩るロッソ、 華やかさを演出するブルネッロ

ブルネッロには同じくサンジョヴェーゼ100%で造られる「妹ワイン」、ロッソ・ディ・モンタルチーノがある。 収穫の翌年から市場に出回るブルネッロとは異なるフレッシュさと透明感を持つ、日々の食卓にふさわしいカジュアルなワインだ。ロッソは生ハムやラルドなどの前菜、ポルチーノやトリュフなどを使ったパスタ料理、若いペコリーノ・チーズに合う。一方、複層的な味わいで奥行きの深いブルネッロはジビエなどの肉料理や熟成したペコリーノにふさわしい。ブルネッロは市場に出回る時点で飲み頃を迎えているが、購入後も20年くらいは貯蔵可能だ。

ところで、ブルネッロ隆盛以前に多く栽培されていた白品種モスカデッロは一時消滅の危機に瀕したが、近年生産者が微増。現在13社が栽培しており、遅摘みの香り高いデザートワインも生産されている。

ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ協会の英語サイト

(書き下ろし)

写真説明

1)カステルジョコンドのワインメーカー、フィリッポ・マンニさんはボルドー大学卒。以前はシャトー・オー・ブリオンに勤務していた。

2)カステルジョコンドの試験栽培畑。80種のクローンが25本ずつ栽培されている。

3)カステルジョコンドのブルネッロ・コレクション。


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