フランスでは、19世紀の社会主義運動という流れの中で「市民間の相互扶助」という観念が練り上げられていったが、具体的には、1946年から1975年にかけての経済成長期直後、石油ショックに継ぐ経済停滞の中でいくつかの連帯経済が生まれた。
CIGALESは1983年にできた小企業へ投資する市民団体グループ。未上場企業を対象とするベンチャー・キャピタルとも言えるが、その目的は大きな収益を上げることではない。5人から20人の市民からなるグループが、起業プロジェクトを選んで、小株主として共同融資する。月に10ユーロから200ユーロ、それぞれが可能な金額を融資し、融資額の18%が所得税から差し引かれるというメリットがある。(富裕税対象者の場合は融資額の50%)
5年、あるいは10年後にグループは解散。その際、企業が続いて活動する場合は、融資額が返却され、企業が売却された場合の剰余価値は株主に配当される。
特徴としては、起業プロジェクトの審査の段階で、社会文化的発展性があるもの、環境に優しいプロジェクトが優先されることがある。また、CIGALESは各地域ごとに事務所があるが、地元の繋がりを大切にするのもそのエスプリの一つ。地域の雇用促進もプロジェクト審査の重要な条件の一つになる。
融資者グループと起業者は定期的に会合する機会をもち、融資者は事業立ち上げのソフト面をサポートする。例えば、オーヴェルニュ地方で有機石鹸を作っているオリヴィエさん。脱サラした時の退職金で起業した。資金3万4千ユーロのうち、3000ユーロをCIGALESが融資。最初の数年、事業が行き詰まった時には、CIGALESのメンバーが集まり、それぞれの経験や、人脈、経営ノウハウを提供してくれた。また、オリヴィエさんは、「印象的だったのは、銀行側の対応の変化だった」という。CIGALESの融資を受けていると、銀行の信用度が上がるのだ。
2014年、251のクラブがあり、3133人が 224万ユーロ融資。クラブ数は近年、増加しており、2017年末には500のクラブが立ち上がることを目指している。
CIGALESの資金面での支援を補強するのが連帯出資共同会社、1986年に創立されたGARRIGUE。融資額は最低2万ユーロから最高10万ユーロとCIGALESより多いが、5年から7年で6%の利子で返却しなくてはいけない。GARRIGUEは2005年からアフリカでの起業に融資するアフリカ基金も開始した。
また、フランスには、ノーベル平和賞を受賞したムハネッド・ユヌス氏のマイクロクレジットのコンセプトをフランスで適応させたマリア・ノヴァク氏によって2005年に創立されたADIEもある。
銀行融資にアクセスできない人、これまで失業していた人や生活保護を受けている人々を対象に、起業資金4000ユーロまでを利子なしで、それ以上の場合は最高1万ユーロを7.63%の利子で48ヶ月間貸し出す。CIGALESと違うのは、サービス業からインターネット上での販売まで、幅広い職種を選べることだ。
1300人のボランティアが、企業の経営面を支援。グループでの経営講習会の他、個人的に経理や法的手続きの面での手助けをしている。2016年、1万4366企業を支援し、1億2000万ユーロマイクロクレディットを融資した。
例えば、ファティマさん。中卒で16歳からレストランの厨房で働き始めた。2015年、30歳で独立。ADIEの融資で小型トラックを購入し、以来、展示会やサッカーの試合場を回って、サンドイッチ、ホットドック、クレープの販売をしている。
また、働いてはいるが、銀行から融資を受けられるような条件を満たしていない人々を対象に、運転免許取得、車の修理、引越しといった物入りの時に、7.63%で36ヶ月という条件で3000ユーロまでを貸し出しするといったサービス提供している。
2015年、フランス人は4億4千万ユーロを連帯企業に融資。連帯経済は、現在、国内総生産の10%、教育・健康・社会福祉、財政、保険などの分野で雇用の12%を占めており、侮れない経済力を有するセクターに成長した。
写真1 ADIEの創立者マリア・ノヴァク氏。ノーベル平和賞を受賞したムハネッド・ユヌス氏のマイクロクレジットのコンセプトをフランスで適応させた
Monthly 信用金庫 2017年5月号掲載 World Report フランス