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【インタビュー:ハーバード流人材育成に学ぶ】前編:これからのリーダーに必要な資質とは?


写真はイメージです

(写真はイメージです)

世界のトップリーダーを育む教育機関であるハーバード・ビジネス・スクール(以後HBS)は、2011年から教育改革を実施しました。昨年出版された「ハーバードはなぜ日本の東北で学ぶのか」(著:山崎 繭加, 監修:竹内 弘高/ダイヤモンド社)は、その改革の流れを背景に、HBS が日本の東北を舞台に開催している授業、ジャパンIXP(Immersion Experience Program)を紹介するもので、その内容は仕事をする全ての人に少なからぬ示唆を与えてくれます。

同書を執筆された、元HBS日本リサーチセンターのスタッフで、ハーバード・ビジネス・レビュー特任編集委員の山崎繭加氏にインタビューを行い、これからのリーダー、そしてビジネスマンに求められるものについて伺いました。前編後編の2回に分けてお送りします。前編は「リーダー」についてのお話です。

お話を伺った方:ハーバード・ビジネス・レビュー特任編集委員 山崎繭加氏

「Knowing」偏重から「Doing」「Being」へ:HBSの教育改革

-ご著書を拝読させていただき、仕事をする上での自らの在り方についてあらためて考えさせられました。お話を伺う前に、まずHBSの教育改革をについてあらためてお聞かせください。

山崎繭加氏(以降、山崎氏):HBSの創設(1908年)当初からの理念は、「世界を変えるリーダーを育成する」ということです。リーダーを育てるためにどのような教育をすべきなのか。試行錯誤しながら確立してきたのが「ケース・メソッド」。組織や人が抱える具体的な課題について書かれた物語(ケース)を読みこみ、教室で議論して学ぶという手法です。MBA(経営学修士)では2年間で約500のケースを読みます。国、産業、組織形態、立場などあらゆる状況に模擬的に身を置いて「自分ごと」として議論することで、自分自身の考え方を明らかにし、他の価値観から学び、意思決定を行うトレーニングを行います。

ところが2008年の世界金融危機と創立100周年とが転機となって、ほぼケース・メソッドだけで行ってきたこれまでの教育スタイルでよかったのだろうか、という真摯な自省が行われました。HBSは危機を引き起こした金融業界に多くの卒業生を輩出してきたからです。結果、2011年に大きな教育改革が行われました。

そこで提示されたフレームワークが「Knowing, Doing, Being」という考え方です。「Knowing」とは、知識を指します。

「Doing」は、実際に行動して、失敗をしたり泣いたり笑ったりすることによって学ぶこと。そして「Being」は「自分が何者で、どんな価値観を持ち、社会にどう向き合いたいか」という、すべてのスタート地点となる意識の部分での学びです。

「Being」は何をやるにしても基本となる羅針盤のようなものです。教室の中で行うケース・メソッドでは、どうしても

「Knowing」偏重になってしまっていました。そこで「Doing」と「Being」も重視する教育へと切り替えていく、というのが改革の方針となりました。

新たな教育手法の一つとして導入されたのが、学生たちが海外に行き現地にどっぷり浸かってその地で事業を展開する企業の課題解決を手伝うといった実践を重視した授業です。東北でのジャパンIXPは、東日本大震災を機に「日本のために何かをしたい」という学生の要望から誕生したプログラムですが、この実践重視の教育改革の流れを受けて、単位が出る正式な選択科目となりました。HBSの学生たちは東北で地域のための事業を営む企業に対しコンサルティングを行います。

次世代のリーダーたちに感じる社会意識の高まり

-新たなフレームワークでは、知識だけではなく、自分が社会にどう向かいたいかが重要とのことですが、この考え方は社会貢献を重視するといわれるミレニアルズの考え方にも通じるように思います。グローバルエリートであるHBSの学生たちの多くもまたミレニアルズに当たりますが、彼らが以前の学生に比べて社会的事業に高い関心を持っていると感じることはありますか?

山崎氏:10年HBSで働いていた肌感覚ではありますが、社会貢献や社会的事業に対する興味は高まっていると感じます。HBSでは2000年代の初めに「Social Enterprise Initiative」という社会的事業に関する研究や教育を行う横断的な組織が立ち上がりました。当初はそうしたテーマの授業はあまり人気がなかったと聞いています。それが今では、履修が難しい人気クラスになっているそうです。

学生たちの社会貢献への興味の高まりには、例えばビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグのような、ロールモデルとなる成功者たちの存在が大きいと思います。資産のほとんどを社会貢献に使うというビル・ゲイツの行動は、一人の人間として尊敬を集めていますし、マーク・ザッカーバーグは財団を作って「教育分野」に投資をするなど社会貢献活動に力を入れています。

さらに、本業で稼いだお金で社会貢献をするというゲイツやザッカーバーグのモデルに加えて、本業で社会貢献する、事業を通じて社会課題の解決を行う、というソーシャルビジネスを志す人もHBSでは増えてきています。2006年にグラミン銀行の創始者ムハメド・ユヌス氏がノーベル平和賞を受賞したことも、ソーシャルビジネスの社会的認知や興味の高まりにつながっているのではないかと思います。

真のリーダーには「共感させる力」「夢を見させる力」が必要

-山崎さんは、東北でのジャパンIXPや、HBSでのリサーチ活動などを通して、数多くの優れたリーダーの方と触れ合う機会がおありだったかと思います。そんな山崎さんが考える、これからのリーダーに求められる資質とはどんなものでしょうか?

山崎氏:私はリーダーシップの専門家ではないので、あくまでこれまでいろいろな方にお会いしてきた経験に基づく私見になりますが、多くの人を率いるリーダーには、「共感させる力」つまり「自分の夢をみんなの夢にする力」が必要だと思います。

リーダーとは何をする人なのか。それは「ビジョンを掲げ、そこに人を向かわせる」ことができる人のことなのではないでしょうか。ビジネスでも、政治でも、社会問題でも、どの分野でも同じです。

こういったリーダーたちが抱く夢はとても大きく、いろいろな人の持てる力を出し切らないと実現はしません。ですから、「メンバーが気持ちよく能力を発揮出来るチームや場、組織を作っていくことができる力」も、リーダーに必要な資質のひとつではないでしょうか。

「聴く力」こそ、リーダーに求められるもっとも根本的な資質

-では実際、そんなリーダーに必要なスキルとはどういったものだとお考えでしょうか?どんな人が、そういったリーダーになれるのでしょうか。

山崎氏:スキル以前に、ビジョンや「こういう世界を創りたい」というイメージがない人は、リーダーになる必要はないのではないかと思います。偉くなりたいということと、リーダーになりたいということは、本来全く違うものですから。リーダーに求められるのは、自分の無形の夢に人々を巻き込む、自分の夢をみんなの夢にする力。これはスキルというよりは、その人の魂から生み出されるものなのではないでしょうか。

とはいえ、組織を作る、チームを作るということにはある程度スキルが必要で、そのために大切なのは「聴く力」だと思います。人は、自分が能動的にやっていることの方が絶対にパフォーマンスが高いですから、そうなるように環境・仕組みを作ってあげられるかが重要です。一人一人をよく見て、その人にあった仕事、形を作る、デザインしていくことが必要なのではないかと思います。それを可能にするためには、まず人の話を真摯に聴くことが大切です。

後編に続く)


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