ニューヨーク・ブルックリン。マンハッタンのお隣に位置するこの地域ではここ10年ほどの間、クリエーティブマインドの高まりとともに、作り手の顔や思い、手のぬくもりなどが見えたり感じとれたりするモノへの愛着が高まっている。
ハンドクラフトにこだわるクリエーターは、マンハッタンより広いスペースが借りやすいブルックリンで日々創作活動に励んでいる。手作りするモノは洋服やジュエリー、食べ物、スキンケア用品、家具と実にバラエティー豊か。そして、その活動は各種アルコール類にまで広がりを見せている。
NY産の日本酒誕生
全米ではクラフトビールが大流行している。2006年の調査によると、米国内にあるビールの小規模醸造所は3千以上。ニューヨーク州には200以上あり、ブルックリンでも20以上の醸造所が小規模ながらビール造りをしているとされる。そのブルックリンでは、クラフトビールはもちろんのこと、ワインやウイスキー、ウオッカ、ジンなど各種アルコール類も少量生産され、地元の人々に親しまれている。地産地消の精神で原材料はできるだけ地元でとれたものにこだわり、それを誇りとばかりに「ブルックリン産」を声高にうたう。
そしてこの秋、ニューヨーク初となる日本酒の蔵元まで完成し、グランドオープンを迎えようとしている。その名も「Brooklyn Kura(ブルックリン・クラ)」。日本滞在中の13年に出会ったブライアン・ポレン氏とブランドン・ドーン氏が日本酒のおいしさに目覚め、意気投合。日本の蔵元で日本酒作りを学び、カリフォルニア米やブルックリンの水を使って純米吟醸酒や生貯蔵酒、にごり酒などをここブルックリンで作り始めた。
味は意外にも驚くほど本格的だ。出来たてもおいしいが、寝かせることで熟成感が増しより深みある味わいになりそうだ。すしやラーメンに続き、日本酒までもが米国人により作られる時代になったのだと驚くばかり。
酒蔵を開いた動機を両氏に聞いてみた。ポレン氏が「日本のウイスキーは質の高さで世界中に名をとどろかせた。しかし、10年前に誰がそんなことを予想できただろうか?」と話すと、ドーン氏が「日本で本格的なウイスキーができたのだから、米国産の本格的な日本酒があってもおかしくない」と言葉を継いだ。日本では若者の日本酒離れが懸念されているが、トレンドの発信地ブルックリンで地酒がブームになれば、日本の市場にも好影響を与えることになるだろうとして期待が高まる。
根付くシェア文化
Brooklyn Kuraは投資家の援助があるからこそできた大胆な試みだが、彼らのように潤沢な資金を持っている生産者や職人ばかりではない。そこで、自社工場や制作スタジオを構えられない職人らの強い味方となっているのが、作業スペースをシェアするスタジオだ。「シェア工房」と呼ばれるこれらのスタジオは広いスペースを比較的リーズナブルに借りられることに加え、備えられた工具を自由に使って創作活動に打ち込め、大型設備などの初期投資も不要とあり高く支持されている。製作の場を
シェアしている職人同士が自然と交流することで、ジャンルを超えたさまざまなコラボレーションも誕生しているという。ルームシェアの文化や近年のコワーキングスペース(シェアオフィス)ブームからもわかるとおり、シェアすることに関して日本よりオープンで寛容な米国。ブルックリンのクラフトシーンでもシェア文化がすっかり定着しているのだ。
開業時も助け合い
開業して2年になるブルックリンの小規模醸造所「StrongRope(ストロング・ロープ)」。コンペティションでいくどとなく受賞するなどビール作りの実力はお墨つきだ。オーナーのジェイソン・サーラー氏は自社ブルワリーをオープンした時を振り返って「近所にThrees Brewingという別のブルワリーがあるが、設備を運ぶときにフォークリフトを貸してくれた。ここには助け合いの文化がある」との秘話を教えてくれた。
モノを手作りしたり、ローカル産を選んで地元の経済を応援したり、必要なものを貸し合ったりシェアしたり…。ニューヨークのみならず大都会はどこも人との関係が希薄になりがちだが、ブルックリンではこんなほっこりした人間模様が繰り広げられている。(米ニューヨーク在住ジャーナリスト、安部かすみ=共同通信特約)
共同通信47NEWS 11月28日配信 https://this.kiji.is/308135536975152225?c=39546741839462401