イギリス人は伝統的に貯金をしない国民だった。資産形成の手段は圧倒的に「持ち家」購入。一度買ったらその価値は上がるばかりなので、リタイア時に住処をダウンサイズすれば、家の売却益と年金を合わせて快適な老後を送ることができた。イギリスの保険会社が数年前に調査したところでは、イギリス国民の1/4が貯蓄ゼロ。その1/3が非常時にはクレジットカードやペイデイ•ローンと呼ばれるいわゆるサラ金でお金を借りてしのげばいい、と考えている。そして、本当はこのくらい貯めなくてはと思っている額は£1,200(現在の為替レートで約18万円)。さらに「私には貯金がある!」と胸をはる人の平均残高はたった£2,000(約30万円)。これが日本よりずっと物価が高い国の話なのだから驚きだ。
こんな国民に、なんとかして流動性資産形成を促そうという政府の働きかけは80年代の終わりから始まった。それがISA(インディビジュアル•セービング•アカウント 利子非課税の個人貯蓄口座)だ。当初は投資用のみでPEPと呼ばれ、18歳以上なら年間一人£2,400(約36万円)まで投資することができた。その後上限枠は毎年上昇、99年からは投資だけでなく貯蓄も加わって現在のISAという名前になった。現在は年間£20,000(約3百万円、2018年の上限額)までの枠内で、投資と貯蓄用ISA商品を自由に組み合わせることができる。
今年からは、従来の貯金用(キャッシュISA)と投資用(株ISA)というふたつのカテゴリーにさらに「イノベティブ•ファイナンスISA=IF ISA」が加わった。これにはクラウドファンディングや、銀行を通さないピアツウピア(個人対個人)ローンへの出資などが該当する。利用できるのは、FCA(金融行為規制機構) の認定をうけた機関を通じてのみで、利益や配当に税金がかからないという以外、リスクなどは他の投資手段とまったく同じ条件だ。預金保険機構による補償スキームにも当然カバーされていない。今のところ平均利息6〜8%を誇っているが、もちろん拠出金が焦げ付く危険性も大ありだ。
しかし、低金利時代が長引くなか、投資にでも手を出さないとお金がぜんぜん増えない!と考える一般市民も多くなった。そこにIF ISAが登場したことで、少額から簡単にスタートできる新しい投資の仕方が、政府のお墨付きを得たような印象を与えビギナーが多数参入している。特にこの10数年続いている不動産の高騰によって、持ち家購入が親の時代のように容易ではなくなった今、若い世代が資産を作ろうと思ったらまずISAからというのが新しい伝統となりつつあるようだ。不動産購入の頭金を貯める専用のキャッシュISAなども、高めの利子と政府がボーナスをつけてくれるなどの特典付きで人気を集めている。また、近い将来に仮想通貨ISAも登場するのでは?という声も聞かれるが、政府は今の所実現の可能性を否定している。
「マンスリー信用金庫」6月号 一部編集