ミャンマーのザガインにある「カウンムードー・パゴダ」は、その形から日本人観光客に「おっぱいパゴダ」の名で知られている。このパゴダの色をめぐり、ちょっとした騒動が起こった。
▼仏塔の町
ミャンマーのほぼ中央に位置する同国第2の都市・マンダレー。その郊外に位置するザガインは、14世紀と18世紀には当時の王朝によって首都に定められた古都だ。歴代の王たちが多くのパゴダ(仏塔)を建立し、いまや仏教大学も擁する一大宗教都市となっている。最盛期には千基を超えるパゴダがそびえていたといわれるだけあって、今でもおびただしい数のパゴダや僧院が林立している。
そんなザガインにあるパゴダの中でも最も有名なのが「カウンムードー・パゴダ」だ。1636年に当時の王が建立。高さ46メートルの「おわん」をひっくり返したような半球形の仏塔が特徴的で、スリランカの仏塔様式に基づいたと伝わる。だが、この形になったのには次のような逸話がある。それはミャンマー人の誰もが知っているほど有名だ。
▼王妃の乳房
新たなパゴダの設計の命を王から受けた設計士がいた。ところが、どのような形にしようか迷い、なかなか決められないでいた。そんなある日、たまたま彼の目の前で王妃のロンジー(ミャンマー伝統の民族衣装)がはだけて、彼女の乳房が見えてしまった。その美しい乳房の形を目にした、設計士はこの形にすることを思いついたのだという。この話を現地の日本語男性ガイドが、日本から来た男性観光客たちに面白おかしく「おっぱいパゴダ」と紹介してしまったために、日本人の間ではその名が流布してしまったようだ。
「カウンムードー・パゴダ」は、長らく白かった。しかし、2010年に政府高官が参拝するのにあわせて、ザガイン管区政府が3億5400万チャット(約2500万円)もの巨費を投じ、金色へ塗り替えてしまった。
ミャンマーでは通常、数年おきに仏塔の外壁を塗り替える。パゴダをピカピカの美しい状態に保つことは仏教徒として功徳を積むことになり、多額の寄付を投じる人も多い。歴史あるパゴダであっても色を変えるというのもよくある話だ。とりわけ、金色への塗り替えは好まれる。
▼夢でお告げも
ところが、カウンムードー・パゴダについては違った。地元住民を中心に「白いのが伝統」「急に金色になって落ち着かない」、そして「何より、王妃の胸を金色に塗るなんて失礼だ」などといった大ブーイングが起きたのだ。
さらには、「ブッダや王妃が夢に現れ『白に戻してほしい』と訴えてきた」と主張する市民が次々現れるまでに。このような話が会員制交流サイト(SNS)を通じて拡散したことも相まって、ついには60を超える市民団体が署名運動を行うに至り、18年1月に政府へ嘆願書を提出した。ザガイン管区政府も高まる反対の声に抗しきれなかったのだろう。ついに塗り替えることとなり、昨年12月から工事を始めた。工事の進行具合にもよるが、遅くとも来年には元の白い姿が復活することになりそうだ。
なお、日本語がわかるミャンマー人には「パゴダを“おっぱい”呼ばわりするとは失礼」と考えている人が多いので、現地の人にこの話題を出す際にはくれぐれもご注意のほどを。