© 全国新聞ネット アラブ首長国連邦アブダビでドライブスルー方式の新型コロナウイルス検査をする医療関係者(右)=3月30日(ロイター=共同)
感染者が1千万人を超えるなど新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るっている。米国やブラジルなど感染者数が多い国に注目が集まりがちだが、中東各国でも感染者の増加に歯止めがかかっていない。
中でも、アラブ首長国連邦(UAE)では6月に入ってから連日400人近い新規感染者が発生している。UAEの人口はおよそ990万人。約1400万人が住む東京都で確認された直近7日間の新規感染者数は1日当たり約51・9人(6月29日現在)だ。両者を比較すると明らかに多い。しかし、背景には日本とは違う姿勢で新型コロナに挑むUAEの政策があった。(ジャーナリスト、共同通信特約=伊勢本ゆかり)
▽メッカ巡礼も禁止
UAEでは、国内で感染が拡大する前から徹底した予防策を取ってきた。首都アブダビでは、フランス・ルーヴル美術館の姉妹館である「ルーブル・アブダビ」などといった観光名所を3月15日から一時休館にした。24日には連邦を構成するドバイとアブダビにある2空港を閉鎖して、出入国の流れを止めた。同時に、市民の外出も制限した。違反者には3千ディルハム(8万7500円)以上となる高額の罰金を科される厳しいものだ。
他の中東各国でも同じように対応している。聖地メッカを抱えるサウジアラビアでは周辺アラブ諸国からの入国を制限し、イスラム教の巡礼も禁止した。毎年7月下旬から8月上旬にかけてはイスラム教徒にとって重要なメッカへの大巡礼(ハッジ)が行われる。同国のベンティン巡礼相は6月23日にハッジを大幅に縮小することを明らかにした。ハッジには例年200万人以上が参加するが、千人前後に抑える予定だ。国外の巡礼者は受け入れないとしている。
© 全国新聞ネット 巡礼者の受け入れを停止し、閑散としたサウジアラビア西部メッカのカーバ神殿=3月6日(ロイター=共同)
▽PCR検査、日本の107倍
十分な対策をしているにもかかわらず、UAEの感染者数は4月以降急増した。感染拡大は今に至るまで続いており、米ジョンズホプキンズ大のまとめでは感染者は約4万8千人を数えている。
そこには理由がある。UAE政府が感染の有無を確認するPCR検査を積極的に実施しているのだ。1日の検査数は現在でも4万件以上。6月28日までに実施された検査総数は累計で317万件を超えている。国内に住む人の3人に1人以上がPCR検査を受けている計算だ。
人口100万人当たりの検査数を見てみよう。厚生労働省の統計によると、日本の検査総数はほぼ同時期の6月27日時点で37万8673件。人口100万人当たりでは約3000件となる。一方、UAEの人口100万人当たり検査数は約32万件。日本のおよそ107倍に当たる検査を実施していることになる。
▽ 手際の良さ
PCR検査を感染防止対策の柱として位置づけるUAE。検査拡充の順番も理にかなっていた。手始めに低所得者が集団で生活をするエリアなどを中心に検査を実施した。住んでいる人のほとんどがインドやパキスタンなどアジアからの出稼ぎ労働者だ。
© 全国新聞ネット UAE保健省が作成した携帯電話のアプリ。PCR検査の申し込みはこのアプリで簡単にできる
彼らは狭い部屋に多くの人が生活しているため、他人と近い距離で生活せざるを得ない。つまり「3密(密閉、密集、密接)」の状態にあって、クラスター(感染者集団)が発生しやすい。ここをきちんと検査することが感染の拡大防止に有効だと考えたのだ。
続く対策も手際が良かった。3月末以降、ドライブスルー方式のPCR検査場を国内各地に次々と設置したのだ。50歳以上や妊婦、慢性疾患がある人に加え、海外からの帰国者と濃厚接触者については無料で検査している。370ディルハム(約1万800円)を払えば、誰でも受けられる。申し込みは保健省が作ったアプリで簡単にできる。結果は24時間以内にこのアプリを通じて通知される。
陽性と診断された人のうち、無症状または症状が軽微な人は自宅または指定のホテルで14日間隔離されることになる。入院や再検査の必要はない。14日間を過ぎれば、無症状の人が他人を感染させる心配がないとの見解をUAEの保健省が示しているからだ。
▽検査より大切なもの
約4万8千人というUAEの感染者数は日本の約1万8千人よりかなり多い。一方、死亡者は28日現在で313人。日本の死者数は985人なので抑え込んでいるといえる。
だが、UAE政府は検査の手を緩めるつもりはないようだ。必要ならば国内で暮らす全ての人を対象に無料で検査を行うとしている。ここには人口の9割近くを占める外国人も含まれている。
やはり、感染者数の増加を恐れずに検査数を増やしていることが功を奏しているのだろう。いまだにPCR検査がなかなか受けられないという批判がある日本からすると、何ともうらやましく見える。
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