〜日本は「グリーンリカバリー」にどう向き合うか(上)の続き〜
最近、「グリーンリカバリー」という言葉が世界に広がりつつある。新型コロナ禍で大きな痛手を追った欧州が発信元で、「気候変動対策をコロナ後の経済復興の中心に据えよう」という動きだ。一見とっつきやすい言葉だが、その本質に迫るには、これまで20年以上に渡って環境・CSR問題に取り組んできた「欧州の本能」と、「企業とNGOのパワーバランス」を理解すること抜きには難しい。(オルタナ編集長・森 摂)
「ウィー・ミーン・ビジネス」が欧州で存在感
欧州では、気候変動枠組条約締約国会議による「パリ協定」(2015年)に向けての議論あたりから、企業と政府、そしてNGO/NPOによるイニシアティブやネットワークづくりが急速に拡大した。
CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)やRE100(再生可能エネルギー100を目指すイニシアティブ)、SBT(企業の気候変動対策を科学的に評価するイニシアティブ)などがそれに当たるだが、特にこうした個別のイニシアティブが連携した「ウィー・ミーン・ビジネス」(We Mean Business)というネットワークが欧州で存在感を高めている。
「ウィー・ミーン・ビジネス」はオルタナ53号(2018年8月号)の第一特集で詳説したが、その名称は「私たちは本気です」という意味だ。「本気」の矛先はもちろん、気候変動問題である。
企業とNGOは「対立」から「協働」へ
興味深いのは、こうした組織ではいわゆる環境活動家やNGOだけでなく、ユニリーバのポール・ポールマン前CEOやネスレのマーク・シュナイダーCEOの欧州企業トップが積極的に関与していることだ。ポールマン氏は一時期、「ウィー・ミーン・ビジネス」のボードメンバーも務めていたほどだ。
ほんの10年ほど前までは、特に環境NGOは欧州でも企業の「天敵」として恐れられていた。グリーンピースがその代表格だが、企業を批判する巨大な横断幕を掲げたり、企業本社前でデモをして圧力を掛けたりしていた。
ところが、2015年のパリ協定あたりから、企業とNGO/NPOがネットワークを組んで、共通の社会課題に取り組むという動きが顕著になってきたのだ。企業とNGOのパワーバランスは、「対立」から「協働」に変化していった。
「ネットゼロ・リカバリー」に日本企業4社が参加
欧州グリーンディールからグリーンリカバリーへの動きにおいても、こうした「マルチステークホルダー」による協働は顕著だ。この流れでは、さらに「ネットゼロ・リカバリー」
という新たなイニシアティブも生まれた。(参考記事「ネットゼロ・リカバリー」、YKKなど国内4社参加 http://www.alterna.co.jp/31056)
記事によると「ネットゼロ・リカバリー」は、2050年より前にCO2排出量を実質ゼロにするという気候変動対策の目標と新型コロナ禍からの経済復興を整合させるという考え方だ。
SBT、国連グローバル・コンパクト、「ウィー・ミーン・ビジネス」が共同で声明を発表し、世界155社(合計時価総額約260兆円)が署名した。
ここでもSBT(サイエンス・ベースド・ターゲット)、国連グローバル・コンパクト、「ウィー・ミーン・ビジネス」というおなじみのイニシアティブが顔を連ねている。ちなみに日本からは前田建設工業、丸井グループ、高砂香料工業、YKKの4社が参加した。4社のスピードの速さは称賛に値する。
「ネットゼロ・リカバリー」の発足に際して、ネスレのマーク・シュナイダーCEOは次のコメントを発表した。「世界をもっとサステナブルに、レジリエント(強靭)にするために、集まりましょう。ネスレもその役割を果たし、2050年までに温室効果ガスのネットゼロにコミットしました」。
H&M(スウェーデン)のヘレナ・ヘルメルソンCEOも「リカバリーは、地球(の資源)と引き換えであってはなりません。企業も政府も気候アクションをコミットし、責任を取っていかなければなりません」と表明した。
NGO/NPOに積極的に向き合うことが重要
こうした企業トップの言動は、NGO/NPOとの対話によって生まれたものだろう。ユニリーバやネスレはパーム油調達による熱帯雨林の伐採や児童労働問題などで、H&Mは「ファストファッション」の資源浪費性を常に社会やNGO/NPOから批判されてきた。
日本企業の場合、かつてはNGOから批判されると、交渉の場にすらつかないことも多かった。今でも同様の傾向は残っている。しかしユニリーバ、ネスレ、H&Mなどの欧州企業は、NGOからの批判に逃げることはなかった。むしろ積極的に向き合い、パーム油問題では、問題解決のためのプラットフォームも生まれた。
いま、環境問題において、国内外のNGO/NPOの批判の矛先は日本のメガバンクに向けられている。石炭火力発電所への融資や出資が問題になっている。
欧州では、企業とNGOの関係性は「対立から協働」へと変化した。日本でも、共通の環境・社会課題を解決するために、企業とNGOは新たな関係性を探ってほしい。
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